(332杯目786の詳しい解説)

柏木はいじめられたりする事が多く、普段からよく保健室へ逃げ込んでいた。
葉山は事情を察し、彼を拒むことなくかくまってやっていた。
昔から気が弱く、自分も学生時代いじめられることがあったので
なんとなくかばってやりたくなったのかもしれない。
そして柏木はある決意を胸にこの日を迎える。
HRを終え、すぐに保健室へ。「大丈夫、僕の行動を気にしてるやつなんか
いないんだ・・」彼は普段から世話になっている葉山を頼った。
「先生、僕を殺してください。」
葉山は戸惑い、説得を試みたが、彼の決意は固そうだ。
「わかった。協力・・するよ・・・。」気は進まなかったが。

彼は自殺だとは思われたくないというので
多少手の込んだことをする必要があった。
ほとんどは彼が一人で行った。
まずトイレの個室に入り、争ったような形跡を内側の壁や
ドアにつけた。校内の誰かを犯人にしたいので
調理室からナイフを持ってきてあり
それを使った。これは凶器としても認定されるだろう。
本来であれば誰かの指紋をつけたいところではあるが・・
次にゴムひもを個室の反対側の壁にある水のパイプにくくりつけた。
ひものもう片方はナイフの取っ手にしばりつける。
準備は完了だ。あとは先生がうまくやってくれるはず・・
柏木はそのナイフをハンカチで指紋がつかないように持ち、
個室へ入った。そしておもむろに自分の胸を刺す。

薄れていく意識の中、彼は気がついた。
「あ、いつものクセで鍵をかけ・・・ちゃ・・・」
だが、彼には鍵をあける力は残されていなかった。

ナイフはゴム紐の縮む力によって体から抜け、
床に落ち、そのままスルッと個室の外へ出た。

自分の体に指紋がない凶器が刺さったままでは他殺だけ
ではなく、他殺を装った自殺の疑いももたれてしまう。
そのため、ゴム紐を使って自分を刺した後のナイフが
個室の外に残り、そのゴム紐を先生が処分してくれれば
誰が見ても他殺としか思われない状況になるだろう。
なのに彼は個室に鍵をかけてしまった。
もちろんこのうっかりミスだけで自殺と確定
される要因にはならない。凶器が外にあるからだ。
そう、もうひとつのミスさえなければ・・・

葉山がトイレに入ってくる。
そして彼は床に落ちたナイフを見つめる。
「柏木・・本当にやったんだなァ・・」
持参したハサミで管に結ばれた部分とナイフの束の部分の
結び目のところでゴム紐を切った。もちろん指紋を残さないように。
ゴム紐は自らの張力でほどけ、床に落ちた。
柏木が自分を刺した後、ナイフを葉山が引き抜いて現場に
捨て去れば簡単なのだが、葉山は死体からナイフを引き抜くのを
気味悪がって嫌がった。気の弱い彼は、できれば死体を
見ることも避けたかった。
「ドアはしめておいてくれよ・・」保健室を出る前に柏木にそう言った。
が・・

見ないようにと思ってもつい目がドアの方へむけられる。
「ん?これは・・」使用中の文字が目に飛び込む。
内側から鍵をかけるとクルっとまわる、あれだ。
事態を察した葉山。これでは他殺と断定させるのが
難しくなったのではないか・・
どうやっても外から内側の鍵をあけることはできそうにない。
「か・・かか柏木・・どう・・すればスれヴァススス」
すっかり動転した彼はゴム紐のことなどすっかり
忘れてトイレを後にしてしまった。

1000が近くなっ・・もとい、隠れられる場所が
保健室以外考えにくいことから葉山を問い詰めると
あっさり彼は自供をはじめた・・。